【高層ビルが乱立するアジア(その2)】フィリピンの地震発生メカニズムと高層ビルが乱立する市街地における地震時の被害想定について!
【フィリピンの地震はなぜ起きるのか?】
フィリピンは、西側のユーラシアプレート、東側のフィリピン海プレートに挟まれた位置にあります。この両プレートは年間数cmずつフィリピンの下側に潜り込む動きをしています。
フィリピンでの地震は、主にこのプレートの動きに伴って徐々に地下深部でひずみが溜り、この力に耐えきれなくなったときに一気に地山深部でずれが発生した時に、地表面でも振動、変状となって感じられます。
下の図は、プレート境界の位置とこれまでの地震発生個所を示したものです。
これによると全てではありませんが、プレートとプレートの境界付近で主に地震が発生してきたことが解るかと思います。
日本が地震の多い国であることは既にご存知のことかと思いますが、同図によればフィリピンも日本と同じく真っ赤に塗られています。実際には発生場所が多すぎてまるで塗られたかのうに表示されてしまっています。
【地震はどこで起きるのか?】
下の図は、1900年~2016年までにフィリピン付近で発生した、地震の発生個所と大きさを表示したものです。
フィリピンではほぼ全域で地震が観られますが、大まかに言うとルゾンエリアではユーラシアプレートが潜り込む西側で多く、ビサヤからミンダナオにかけてはフィリピン海プレートが沈み込む東側で多く、特にミンダナオでは西側部分、そして南側海上でも多くなっていることが解ります。
出典)USGS ; File:EQs 1900-2016 philippinesea tsum.png
フィリピンに限定して既往の地震を列記すると次のようになります。
ミンダナオ島周辺で多くの地震が発生していますが、バギオ、パナイ、ボホール、マニラ、サマールでも見られますので、全国的にどこで発生しても不思議ではない感じです。
1924年 4月14日 ミンダナオ島で地震 - M8.3
1948年 1月25日 パナイ島で地震 - M8.2、死者70人。
1955年 3月31日 フィリピンで地震 - M7.4、死者440人。
1972年12月 2日 ミンダナオ島で地震 - M8.0
1976年 8月16日 ミンダナオ地震 - M8.0、死者3,700人。
1990年 7月16日 バギオ大地震 - Mw7.7(M7.8)、死者1,621人。
1994年11月15日 フィリピン中部で地震・津波 - Mw7.1、死傷者200人。
2010年 7月23日 ミンダナオ島で地震 - Mw7.6(M7.9)。
2013年10月15日 ボホール島でMw7.1、死者183人。
2017年以降に発生した主なものを以下に示します。
2017年 4月29日 ミンダナオ島で地震 - M7.2。
2018年12月29日 ミンダナオ島で地震 - M7.2。
2019年 4月22日 マニラ北部でM6.1、死者11人。
2019年 4月23日 サマール島でM6.3。
【地震の強さを表す単位について】
地震の強さを表す用語について簡単に説明することにします。
〇マグニチュード
マグニチュードとは、震源での地震の規模を表す単位で、表示はMです。
地中深い震源では、規模を直接計測することができないので、観測地点で計測した地震波形を基に計算して求めています。
これとは別にMwで表示されるのがモーメントマグニチュードで、これは地震波形から求めるのではなく、岩盤のずれの大きさを基に算出する手法だそうです。観測技術の進歩に伴い編み出された手法ではないかと思います。
マグニチュードの値で注意していただきたいことが、値が0.2違うと地震の大きさが2倍、値が1違うと地震の大きさは32倍、値が2違うと地震の大きさは1000倍も違うことになります。比例ではなく対数的に増えていくのでたとえ僅かな違いでもその規模はまったく異なると言うことになります。
因みに日本人なら忘れることが出来ない阪神・淡路大震災はM7.2、東日本大震災がM9.0となっています。
阪神・淡路大震災のマグニチュードが小さいのではないかと疑問に感じた方はおりましたでしょうか?実はマグニチュードが大きくても、発生箇所と計測箇所の距離が遠いと測定箇所での震度は小さな値になってきます。
逆に阪神淡路大震災の場合は、直下型地震でしたのでマグニチュードは小さくても、それによる被害は甚大なものとなっていました。
〇震度
震度は各観測地点での揺れの強さを数字で表したもので、フィリピン Earthquake Intensity Scale (PEIS) を示すと次のように9階級に分類されています。
なお、日本の震度、加速度についても参考に併記させていただきました。
震度階 Shaking 震度 加速度
Ⅰ Scarcely Perceptible 0 0.8以下
Ⅱ Slightly Felt 1 0.8-2.5
Ⅲ Weak 2 2.5-8.0
Ⅳ Moderately Strong 2-3 2.5-8.0-25
Ⅴ Strong 3 8.0-25
Ⅵ Very Strong 4 25-80
Ⅶ Destructive 4 25-80
Ⅷ Very Destructive 5-6 80-250-400
Ⅸ Devastating 7 400以上
Ⅹ Completely Devastating 7 400以上
出典)
PHIVOLCS Earthquake Intensity Scale
【地震による中高層ビルの被害想定】
『マニラ首都圏地震防災対策計画調査』に関する報告書が平成16年度に作成されている。これは日本政府がフィリピンからの依頼を受けて作成したものである。
これによれば、マニラ市街の震度階がⅨ及びⅧになるような地震が発生した場合の被災状況が報告されているが、ここでは中高層ビルの被害状況に着目してその結果を以下に示すものとする。
出典)『マニラ首都圏地震防災対策計画調査』に関する報告書
http://open_jicareport.jica.go.jp/pdf/11763729_01.pdf
〇マニラ首都圏が震度階Ⅸとなる場合の想定被害
想定断層:West Valley Fault
想定規模:Ms7.2
首都圏までの距離:12.5㎞
首都圏の震度階:Ⅸ(日本の場合は震度7相当)
10-30階建では、全壊・倒壊 11%(一部損壊27%)、30-60階建では、全壊・倒壊2%(一部損壊12%)となっていました。
〇マニラ首都圏が震度階Ⅷとなる場合の想定被害
想定断層:1863 Earthquake
想定規模:Ms6.5
首都圏までの距離:13.1㎞
首都圏の震度階:Ⅷ(日本の場合は震度6強相当)
10-30階建では、全壊・倒壊 2%(一部損壊9%)、30-60階建では、全壊・倒壊0%(一部損壊1%)となっていました。
〇想定被害から分ること
震度階Ⅸ(日本の場合は震度7相当)を想定した地震が発生した場合には、全壊・倒壊に着目すると、中層ビルでは約10%となるが高層ビルでは2%と発生件数が極端に少なくなっている。
これは、高層ビルが最近の都市再開発に伴い建てられたものであるのに対して、中層ビルは昔からある既存のビルが多く含まれているためではないかと思われる。
ビルを建設する場合はその時点での基準に従い建設される。フィリピンの耐震基準も何度となく改定されており、建設年の新しい方がより耐震性に優れることになる。
このため、築年数の新しい高層ビルでは、より厳しい耐震基準を適用していることが考えられ、被害発生件数が2%と少なくなっていると考えることが出来ます。
また、震度階Ⅷ(日本の場合は震度6強相当)を想定した地震が発生した場合には、高層ビルでの被害発生件数はゼロとなってます。
このことは、現在マニラ市街地に建てられている高層ビルの殆んどが、震度階Ⅷ(日本の場合は震度6強相当)の地震までは一部に損壊が見られる場合もあるが、概ね耐えられると評価されたことになります。
ここまで、マニラ首都圏での災害時の被害想定について見てきましたが、この結果は、あくまでもマニラ首都圏にある中高層ビルが全てフィリピンの耐震基準を満たしているということが前提条件となった上での結果だということをご理解ください。
【最後に】
震度7に相当する地震としては、記憶に新しいものでは東日本大震災や熊本地震が上げられます。しかし、ジャストポイントに中高層ビルがなかったためか、日本ではこれまで幸いなことに中高層ビルの全壊・倒壊等に関する災害事例は見つかりません。
高層ビルの全壊・倒壊に関する事例は、世界的に見てもなかなか見つけることが出来ないので、安全性を検証することができないのが現実です。逆に言うとそれ相応に、耐震性は確保されているのかも知れません。
ところが先日、マニラの北側で地震があり、屋上のプールの水が、まるで滝のように流れ出しているショッキングな映像を見たことがあります。
今回はここで終わりますが、次回は最近のマニラでの事例等を基に被害想定の検証等を行っていきたいと考えています。
今回は、ここで終わりになります。ありがとうございました。
Thank you so much. See you next time. Good luck.
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